2019 · 08 · 10 (Sat) 06:29 ✎
SNSは刺激があって楽しい。
しかし、一歩間違えるとたちまち
袋叩きの目に遭う。“炎上”だ。
これまで、大きなものだけでも
ブログで2回、ツイッターで1回
痛く、苦い経験をした。
この3連休はその歴史を振り返る。
「リーガ、ゲッツ!」と「unsung heroes」
( 2003.08.30 初出 )
とうとうやりました。
やっとの思いで手に入れました。
あれほど渇望したリーガ・エスパニョ―ラを
放送できることになりました。昨シーズンまで
チャンピオンズ・リーグにかかわってきた
スタッフ、コメンタリーが感じているこの喜びが
お分かりいただけるでしょうか。
この交渉は簡単なものではありませんでした。
私は深く静かに潜航して行われている獲得交渉を
近いところで見てきましたから、この数ヶ月は
気が遠くなるほど長く感じました。
しかも、交渉の経緯を知るものは社内でも ごく
限られた人たちだけで、私たちには“断片”しか
伝わってきませんから、そのわずかな情報を耳に
するたびに文字通り一喜一憂したものです。
さらに、長くなること間違いなしの交渉を成功に
導くためには情報漏れを防がなくてはなりません。
社内を欺くことも大事と、流される情報の中には
“ニセもの”もありましたからたまりません。
5月半ばから何度も希望の光を見たり、絶望感に
襲われたりを繰り返したあと6月中旬に「これは
かなり可能性がある」と思える兆候がありました。
しかし、ベッカムのレアルへの移籍があって、
新たに権利獲得に乗り出す局があるのではないか、
値段が吊り上げられるのではないかと ハラハラ
しました。それでも、無駄になるかもしれないと
覚悟しながら、昨シーズンのリーガ各チームの
データを整理し始めました。(試合ごとの先発・
交代選手、得点を挙げた選手などを記録して
誰がどのように使われたかが分かるようにする
基礎的なデータです)
そして7月上旬、「いけるんだ」という確信を得て
いましたが、交渉ごとは“仕上げ”が肝心ですから
誰にも言うことはできませんでした。私の感触が
間違っているかもしれませんし。
それからでも一ヶ月以上の時間を必要としました。
ニューヨークにいて、完全に情報を遮断されて
いただけにこの時間の長かったこと!!
チャンピオンズ・リーグの権利を失ったことから
始まった今回の交渉は主に二人の男が担当して
いました。“闇のフィクサー”と呼ばれるOと
“タフ・ネゴシエーター”のN…言ってみれば
WOWOWのON砲です。ハハハ。
何かやってるに違いないと思って話を引き出そう
としてもこの二人実に口が堅くて参りました。
脅したりすかしたり、あるいはカマをかけたり
してようやくほんの僅かなヒントをつかむという
具合でストレスがたまりました。
この2ヶ月ほどの間に彼らは何回ヨーロッパに
足を運んだでしょうか。その苦労が見事な結果に
結びつきました。視聴者や社員にしてみれば、
「会社の命令で業務を達成しただけのこと」かも
しれません。しかし、シンデレラなら(ちょっと
強引ですが)実況人生の時計の針が午後11時半
ぐらいを指すところまで来ている私は「CLに
代わる何か」を求める気持ちは誰よりも強く、
社員でもありませんから、この際unsung heroes
(隠れたヒーロー)としての彼らに感謝したいと
思います。本当はもう一人の男のことも書きたい
のですが、迷惑がかかる可能性もありますので
今は書けません。ただ、「持つべきは友、友情は
大事だなあ」と思わざるを得ないある強い“絆”が
あったことは申し上げておきましょう。
それにしてもリーガ、夢のようです。
一シーズン38節の長丁場はCLにくらべても
ボリュームが圧倒ですし、レアル、バルサが
擁するスター選手たち、歴史や文化の違いが生む
クラブ同士の強烈なライバル意識など、魅力は
いっぱいです。開幕したら皆さんとともに
たっぷり楽しみましょう。
さて、「WOWOWのON」は自分たちの手柄を
鼻にかけるタイプの男たちではありませんが、
私は少し違います。実は、4月の末に会長兼社長、
次期社長と会食をしたときに進言しました。
「こうなったら、是が非でもスペイン・リーグを
とるべきです」と。第三者がご覧になったら
“かき口説いて”いるように見えたことでしょう。
必死でしたし、ワラをもつかむ心境だったのです。
ある幹部が「あれが効いてるんですよ」と言って
くれたことがあります。あたっているかどうか
分かりませんが、「種をまいた」ことは確かです。
この結果を見ると「何でも言ってみるものだな」
と思います。謙虚な二人にくらべると ちょっと
“やらしい”ですかね?ま、私が言いたいのは
WOWOW社員や関係者で喜んでいる人は
「水を汲むときには井戸を掘った人を忘れるな」
ということなんですがね。ハハハ。
いずれにしても、これでユーロ2004へ向けての
モチベーションは上がります。帰国が楽しみに
なりました。興奮しています。
…会社のHPに載せました。
テニス中継のためにニューヨークに
滞在中だったので、このとき、社内が
どんな状況にあったか、私はまったく
知りませんでした。それまで別の媒体で
リーガを見ていたサッカー・ファンから
クレームが殺到していたのです。
私が送ったこの他愛もないコラムは
彼らの神経を“逆なで”してしまいました。
なんとなく交渉経過を知っていて、
いい結果が出たことを、ともに喜び、
WOWOWのサッカー中継を応援して
くれていた人々に報告したかった
“だけ”でしたが、そんな“言い訳”は
まったく通じませんでした。
“死ね”、“ヌッ殺す”とおぞましい言葉が
投げつけられました。2chに「岩佐徹を
糾弾するスレ」というそら恐ろしい
スレッドが立つなど、私個人も手厳しく
非難されました。このスレッドは今もあり、
1000件を超えるたびに、この記事が
そのトップに再掲されています。
冷却期間をおいて12月からリーガの
実況に参加しましたが、テンションは
上がりませんでした。
そのシーズン限りでサッカー実況を引退し、
翌年にはアナウンサーをやめました。
「リーガ、ゲッツ」がなければ もう少し
私の実況人生は続いたかもしれません。
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最終更新日 : 2019-08-16